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以前から、カタクリやミズバショウが咲く自然豊かな山里、岩手県の沢内村に、ぜひ一度行ってみたいと思っていた。
転勤で4年間過ごした千葉を離れ、大阪に戻ることが決まった春、妻と二人で宿も決めずに、車で沢内村目指して出かけた。
5月11日。ゴールデンウィーク明けの、最初の週末だった。
早朝自宅を出て、沢内村に着いたのは昼。天気は曇り時々晴れ。
まず、本で見た、カタクリの群落がある場所に行ってみた。なんでもない田んぼのほとりに着くと…。
あった。ついに沢内村のカタクリに会えた！
大群落を前にその見事さに圧倒され、撮影するのも忘れ、しばらく茫然と眺めていた。
少し落ち着きを取り戻してよく眺めてみると、これから咲く蕾がいっぱいあるではないか！満開でないのにこの見事さとは。
1996年は何十年ぶりの大雪、大寒波の年で、春の訪れが2、3週間も遅れていた。5月11日に沢内村でこんなカタクリが見られたのは、本当に幸運だ。例年ならとっくに盛りは過ぎている。
カタクリの他にもキクザキイチゲ、エンレイソウ、ヤマエンゴサク、フキノトウなどがいっぱい咲いていた。
凄いと思ったのは、これらの花が咲いている場所が特別な公園や保護地ではなく、何の変哲もないただの田んぼであったこと。可憐なこの花たちも、ここ沢内村では、あたりまえの、野の花なのだ。
また、ミズバショウが田んぼや車道のわきの水路にボコボコ咲いているのにも、びっくり。「ミズバショウは関東から北では珍しくない」と図鑑には書いてあるが、全くその通りだ。
もうひとつ驚いたのは、キクザキイチゲやフキノトウの花の大きいこと！
私の知っているそれらの花、中部や関西で見ているものだが、大きさが一回り、いや、二回りも大きい。別の種類かと見紛うばかり。
黒々とした土に咲いている花々を見て、厳しい東北地方の冬を耐えてきた「生命力」を感じずにはいられなかった。
12日は十和田湖まで観光、13日再び沢内村に戻り、時間の許す限り花巡りをした。
この日はあいにく、朝から雨が降ったり止んだりの天気だった。
民家の近くの土手でミヤマキケマンを撮っていると、その家の主人らしい人が帰ってきて、
「何をしとるの？」
「花の写真を撮っているんです。」
「ああ、なるほど。」
わかってくれたようで、「この土手には○○が咲くんだ。」などど、いろいろ花の話をしてくれた。
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車で通りがかったその主人の知り会いの人も加わって、ひとしきり花の話に花が咲く（二人同士で話す時の東北弁は、さっぱり意味不明！）。
二人とも、穏やかで優しそうな感じ。東京と違って、ここではゆっくりとした時の中に暮らしているのだなあ、なんて思った。
しまいには、親切にも、ミズバショウの群落地まで車で先導して案内してくれた。ちょっと盛りを過ぎていたが、とっても気持ちのよい群落地だった。
沢内村は自然と人々の暮らしが融合した、本当に素晴らしいところだと思った。2、3日ではなく、もっと長期に滞在したい。
そう思い、後ろ髪を引かれつつ、沢内村を後にして東京への長い帰途についた。
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しかしながら、こんな村にも開発の波が押し寄せてきていることを感じずにはいられなかった。県道の拡張工事と、それに伴う河川改修工事が何ヶ所も行われていたからだ。
地元の人々にとってみれば、いつも使う道は、安全で走りやすい道の方がいい。しかし、交通量もほとんどなく、今のままでも十分じゃないの？というような道まで、拡張することはないと思う。
そして、道路の拡張工事をしたところは、必ず河川がコンクリート張りの護岸になってしまう。なぜ、自然のままの川にしておけないのか？およそコンクリートブロックを張り付ける必要性がないゆるやかな流れまで、潰されていた。
工事のための工事としか思えない。
一見、自然な流れを再現したように見せながら、実はコンクリートを張り詰めた護岸の工事をしてある小川もあった。その小川の下流はまだ工事がされておらず、キクザキイチゲが美しく咲いていた。
しかし、そこにも、工事予定の杭がしっかりと打ち付けられていた。
せめて、沢内村のようなところはいつまでもその姿を保って欲しい、と思うのは、そこに住まない人の、「わがままな思い」に過ぎないのだろうか。